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小笠原の電話を受けた俺は水月とともに祐の病室へと向かった。
中に入るとそこには車椅子の婦人、そして医師と数名の看護士がいた。
小笠原「申し訳ございません。こんなお時間に…」
そう言って小笠原は俺たちをカーテンの中へ誘導した。
力「…で、祐はどうなんだよ?」
小笠原「実は……お二人が病室を出ていった後、何度か祐様が愛梨様の名前をまた呼んでおられたのですが…」
小笠原曰く、妹の幸に水月を絶対に呼ぶなと止められ、呼ぼうにも呼べなかったという。
しかしあまりに容体が悪くなる一方なので幸を納得させる為に仕方なく祐の母親にも知らせたとか。
祐母「…愛梨ちゃん……?」
車椅子の婦人は自らそれを動かしながら俺達の方へとやってくる。
愛「…祐の……お母さん?」
祐母「…元気だった?まぁ、こんなに大きくなって……愛梨ちゃん、綺麗になったわね…ふふっ…」
愛「お久しぶりです。えっと…お母さんのお体の具合はどうですか?…あの……祐から聞きました。…私……その…」
祐母「…愛梨ちゃん……ありがとう。」
祐の母親はそういって水月に近づくと彼女の手を取った。
祐母「そうね。頑張らないといけないとは思ってるの。愛梨ちゃんが祐のお嫁さんに来てくれるまでは何としてでもって……」
祐の母親は水月が祐と一緒になることを信じて疑っていないようだ。
どうやら祐の母親には俺と水月がつきあっているとうことは知らされていないようである。
ということは、つい最近、祐が水月との婚約を解消しただろうことも知らないのだろう。
病気のことを考えるとその事実を伝えていないのは仕方がないのだが、俺的にはちょっと複雑だ。
愛「…そんなこと……言わないでください…」
水月もまた祐との婚約解消のことを祐の母親には今は伝えるつもりはないだろう。
祐の母親のことを思えばこそ。
だけど、彼女もまた複雑な気持ちに違いない。
祐母「…愛梨ちゃん。私は大丈夫よ。それより……祐のコト、お願いね。祐、あなたのことばかり呼んでたみたいだから。あの子の傍にいてやって欲しいの。祐にはあなたが必要だから…」
祐の母親にそう言われた水月は俺の方を振り返った。
そして申し訳なさそうな顔をして――
(行ってこいよ……)
俺のその心の内を感じ取ったのか、水月はコクリと頷いた。
そして、祐の母親の車椅子を押しながら彼女は祐の元へと向かう。
俺は……ただその光景を見ていた。
そんな俺のところへ小笠原がきて小声で言った。
小笠原「先ほどはお話が途中になりまして申し訳ありませんでした。差し支えなければ、続きを…」
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