願い

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小笠原「奥様……その後のお話は私が……」 それまで黙って傍にいた小笠原が割って入ってきた。 そして俺と向き合うと静かに話し始めた。 小笠原「愛梨様のお祖父様は祐人様に何かあってはと、とにかく祐人様の周囲を警戒されておりました。そして、その日も仕事を終え、お二人は同じ方向である家へと帰宅途中でした。そこへ祐人様が後継者だと知ったと思われる反対勢力の輩が現れまして…」 力「そいつらに…狙われた…?」 小笠原「えぇ。社長に祐人様のことを自分に任せるよう言っておられましたから、何としてでもお守りしようとしたのでしょう。愛梨様のお祖父様は祐人様を庇い……」 力「…まさか……」 小笠原「祐人様に向けられたその弾を……その胸で……受けてしまわれました。急所は外れていたとのことで即死は免れました。しかし出血が酷く、それが原因で愛梨様のお祖父様はそのお命を……」 そう言って小笠原もその表情を歪めた。 小笠原「生前、愛梨様のお祖父様が社長に申されていたことは、何があっても『おまえの息子は守る』とのこと。しかし、万が一、自身に何かがあれば、後を頼むと予め遺書を用意していたようです。もちろんそんなものは縁起が悪いからと社長はその遺書をお返ししたようですが、いつの間にかその遺書は祐様の持っていたあのお守りに一緒に入れられていたようで……」 力「え…けど、その遺書って読まれては……」 小笠原「いえ、愛梨様のお祖父様が亡くなった際に社長が確認をされておりまして…」 力「何て…書かれてあったんだ?」 小笠原「愛梨様のことを頼むと。そして、もし祐様がその愛梨様への想いを将来も変わらず抱いてくれているようなら、祐様に愛梨様を委ねると。同封している愛梨様に充てた手紙を直接祐様の手から愛梨様へお渡しして欲しいとの内容だったそうです。」 力「水月への……手紙?」 小笠原「えぇ。ですが、それは愛梨様しか読むことが許されないものですので、社長もそれだけは開けておりません。しかし、社長の心は決まっておりました。いずれにせよ、親友のその遺書どおり愛梨様をお迎えするということを……」 祐の祖父さんがどうして水月にあんなにも執着していたのかようやく分かった気がした。 我が子を庇って命を落とした親友に対する報い―― 孫の祐と水月を一緒にさせることが水月の祖父さんへの報いになる。 そう思った祐の祖父さんはたとえ権力をもってだとしても二人を一緒にしたかったのだろう。 けど、それじゃぁ、大切な親友の孫娘の気持ちは…… だが、生前抱いていた親友を思えばこそ自分を納得させたい気持ちが大きかったのかもしれない。
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