願い

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祐母「私ね、あの子が市外の高校に行くって言い出した時、もしかして…って思ったの。」 力「えっ?」 祐母「陸上の名門校だったし、もしかしたらそこで愛梨ちゃんと会う約束をしているんじゃないかって。あの子ったら相談もなく早々に特別推薦で入学を決めてきたの。」 特別推薦となると秋にはもうその進路が決まっていたということになる。 ということは、あの県大会での勝負の後、祐はまだ水月のことを諦めていなくて、彼女を迎えにいくつもりだったということだ。 祐母「それでそのことを祐が義父に報告したのね。そしたら義父もその祐の行動を不思議に思ったみたい。それで後日調べさせたのよ。そしたら……やっぱり愛梨ちゃんを迎えにいく為にその推薦を受けたことが分かってね。そこで義父が動き出してしまったの……」 力「…動き出したって……」 祐母「私達の知らないところで義父が祐に話してしまってね。『おまえには許婚がいる。だからその子と一緒になって大泉を継いで欲しい』って……あれは高校一年の冬だったからしら…」 力「それが……水月…?」 祐母「えぇ。もちろん祐は最初はかなり驚いていて、そんな勝手に決めた許婚なんていらない、大泉も継ぎたくないって言っていたらしいのだけれど。でも、その許嫁が愛梨ちゃんだと分かって、祐は『考えたい』って言い出してね。」 祐もまさかそれが水月だなんて思ってもいなかっただろう。 だけど、その運命に内心かなり喜んだに違いない。 祐母「入院してる私に何度も相談に来たのよ。いつもあの子言ってたわ。『俺が大泉を継いだら母さん、安心できるだろ?』『愛梨が来てくれたらその病気も治るんじゃない?』って。私のことを凄く心配してくれてね。でも、それは祐の照れ隠しっていうか言い訳だったのかなって…ふふっ…。だって、あの子がずっと愛梨ちゃんのことを想ってたの、私知っていたから…」 祐の母親は遠くを見つめるような目でその懐かしい日々を更に語り出した。   祐母「県大会で初めて愛梨ちゃんに再会した時なんて凄く興奮してたのよ。一生懸命押さえていたみたいだけど私にはすぐに分かったわ。凄く嬉しかったんだなって。だから今でも愛梨ちゃんをまだ想い続けているのなら、愛梨ちゃんさえ良かったらって思ってね。そしたら、昨日、祐が『結論だした』って言うから……」 力「結論?」 祐母「『大泉を継ぐから』って……」
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