願い

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祐母「少し前までちょっと元気がないように思って心配していたの。でももしかしたらそのことを考えていたのかなって。祐が大泉を継ぐっていうことは、愛梨ちゃんが祐のお嫁さんになってくれるってことでしょ?だから私、凄く嬉しくて祐に言ったの。『良かったわね』って……」 祐はその言葉を聞いてどれだけ堪えただろう。 あれだけ水月を欲しかった祐。 だが、その彼女は他の男を想い、自分を拒絶して―― そして犯したしまったあの出来事―― 水月の想いを嫌というほど知ってしまっただろうアイツは、彼女と一緒になることを諦めて、ただ死を間近にした母親を安心させる為だけに後継者になる道を選んだ。 そんなアイツに母親は『良かった』だなんて。 祐母「もしかしたら聞いているかもしれないけど、私ね、ガンなの。そんなに長く生きられないみたいなんだけど、でもずっと願っていた愛梨ちゃんの花嫁姿を見られるかもしれないと思ったら頑張らないといけないなって……」 そんな死を目前にした人に、その人の『願い』をぶち壊すことなんて誰ができるだろうか。 祐もまたそんな母親を目の前にしてそれを否定することなどできなかったに違いにない。 俺は祐が可哀想でならなかった。 なんであいつはこんな運命に振り回されなきゃいけないんだろうか。 そして俺は、そんな悲しい運命の元に生まれてしまった祐から大切な存在であった水月を奪ってしまった。 俺が水月を好きにならなければ、この想いを留めて彼女から離れて池川へ行けば、こんなにも拗れることはなかったのだろうか。 いや、けど俺がこの想いを留めていたとしても、やはり結果は同じだった。 彼女もまた俺を好きになってくれた。 そんな俺達のこれまでの過去を否定なんてできるわけがない。 今、俺達が想い合っているのは現実であり事実。 これまで一緒に過ごしてきた時間……この時間があったからこそ、俺達の今があり、そしてこれからのことを俺達は考えるようになったわけで―― 祐にも祐の母親にも申し訳ないと思う。 けど、俺が水月を、水月が俺を想い、求め合っているのは紛れもない現実で、それだって運命だ。 
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