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祐母「でも、愛梨ちゃんが来てくれて本当に良かったわ…。幸ったら何を怒っているのか愛梨ちゃんを病室に入れるなって……。まぁお兄ちゃんっ子だったから仕方ないのかもしれないけど、でも愛梨ちゃんとは昔は凄く仲よかったんだけど……どうしたのかしらねぇ……」
そう言って祐の母親は溜息を洩らした。
幸にしてみれば、水月は兄貴を裏切った軽薄なヤツ。
しかも、親友だった俺の女になっていたというその事実を目の当たりにしてしまったのだから怒るのも無理はない。
小笠原「大切なお兄様ですから、ご自分がみたかったのでしょう。ちょっとした嫉妬心かもしれませんね。」
そう言って小笠原がそれとなくフォローを入れてきた。
祐母「そうかもしれないわね…ふふっ…。でも、あの子、グループを継ぐって決めた矢先にあんなことにあったでしょ?私、愛梨ちゃんに申し訳なくて…。でも、愛梨ちゃんを危険な目に合わせることにならなくて本当に良かった。もし、そんなことになっていたら祐は身体だけじゃなく心も苦しむことになったかもしれないのだから……」
身体だけじゃなく心も?
違う。
祐はもう十分心も苦しんでいた。
アイツは誰にもその心の痛みを話すこともなく一人で全てを抱え込んで生きてきたんだ。
力「こんなことがあっても……まだ祐を……大泉グループの後継者として考えているんですか?」
祐母「力…君?」
俺は思いの丈を語ろうと思った。
力「俺……思うんです。祐は……アイツは走る為に生まれてきたんじゃないかって……」
祐のその走りを初めて見た小学生の頃、悔しいけれど、俺にはない天性の走りというのを感じた。
その走りで何度も競い合った俺たちだったが、タイムこそは似たようなものの、その走りのカタチは断然アイツが上だった。
それでもトラック競技は結果が全て。
俺はアイツと公式な試合である県大会で初めて走る時、それを知っていたからその天才的な走りに勝てるかどうか内心不安だった。
それでも俺がアイツに勝てたのは、あの時、俺が水月を想う気持ちが単にアイツに勝っていたからなのだと思っている。
いや、もしかしたらあれは執念だったのかもしれない。
俺がずっと大切に見守ってきた水月をアイツが傷つけた……そのことに対する執念――
力「俺は……祐には走りを続けて欲しいと思っています。いや、祐だって走りたいと思っていたと思うんです。俺はそんな馬鹿デカいグループの後継者問題とかそんなことよく分かりません。けど、それに対する重圧がアイツを苦しめていたのは事実だと思うんです。俺はもうアイツにそんな重圧を……苦しみを背負って欲しくないんです。」
できることならば、俺はまたアイツのあの走りを見たいと思っている。
それは、俺と勝負するためということではなく――
もちろん、完治すれば勝負したい。
でも今は単純にアイツのあの走りを失いたくない。
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