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力「俺はただアイツが安心して目を開けられる現実を用意してやりたいんです。今度、アイツが目を開ける時は、大泉グループを背負うプレッシャーとか、そんなものなんてない、ただフツーの高校生としての現実を見せてやりたいんです。」
高校生なら当たり前にできる、そして思える、そんな環境をアイツだって得る権利はあるはずだ。
どうしてその人生を自分以外の誰かから決められなければならないのか。
そんな人生を生きていたって何も楽しくない。
力「できることなら、俺、安心して目覚めさせてやりたいんです。目を開けた時に安心できる現実が待っていないと、祐だってその瞼を開けたくても開けられないんじゃないかって……」
そんな俺の話を祐の母親はずっと真剣に頷きながら聞いてくれていた。
祐母「…力君……ありがとう。祐はいいお友達をもったわ。そうね。力君の言うとおりかもしれないわね。確かに祐は出血が多かったせいもあって危険な状態なのよ。でもさっき、お医者さんも言ってたんだけど、それよりもあの子は精神的なものがかなり大きな影響を受けているんじゃないかって……」
力「…え……」
祐母「だから目を開けたくても開けられないのかもしれないわね。その証拠に何故か愛梨ちゃんがいると祐の症状は凄く安定しているみたいだし……」
俺が病院に駆けつけたときもそうだった。
祐が苦しんでいる時、水月が祐に話しかけると、苦しそうなその表情が治まり穏やかになった。
祐にとっての命は、もう今は水月にかかっているといっても過言ではないのかもしれない。
小学生の頃、水月が入院していた時、その目を覚まさせたのが祐だったように、祐もまた水月じゃないとその目を覚ますことができないのかもしれない。
力「水月は必ず祐の目を覚まさせます。だから、祐が目覚めるその時の為にも…」
俺を見つめる祐の母親の表情は穏やかで凛としていた。
祐母「…私……気づくのが遅くて、あの子が目を覚ましたときには、もうあの子に許してもらえないかもしれないけど……でも、その時の為にも、祐が安心して自分の道を進めることができるように、もう一度、義父達とちゃんと話し合ってみるわね……力君……」
力「…お願い…します…っ…」
祐母「大切な息子の為ですもの。後悔したくない。私があの子の母親としてできることはもうこれが最後かもしれないし……。あの子が幸せになること、それが私の一番の願いだから……」
そう言って、祐の母親は俺に微笑んだ。
ふと重なった祐の面影――
まるで祐がそこにいるんじゃないかと思えた。
そして俺は思った。
祐がその目を覚ますのはそんなに遠くはないだろうと――…
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