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力「それにしても、おまえは水月に対して……変わったよなぁ…」
水月が病室を出ていった後、俺達は久しぶりに男同士、水入らずの会話をしていた。
祐「ん…まぁ、そうだね。俺、いろいろと後悔したからさ。ほら、今の俺と愛梨が逆の立場だった時にさ…」
力「…あぁ、それか。あの時は本当焦ったよな。俺も信じられなくって…」
それは俺達が小学五年の頃。
祐が転校して数か月後のことだった。
水月がいきなり大病を患い入院をした。
彼女は数日間その眠りから覚めずにいた。
俺は水月の友達と一緒に彼女の入院する病院へと見舞いにいったのだが、そこで待っていたのは、彼女が生死を彷徨う危険な状態に陥っているという現実だった。
祐「俺、おまえから電話もらった時、心臓が止まるかと思ったよ。」
力「だけど、おまえがすぐに病院に駆けつけてくれたおかげで水月は目を覚ましたんだよな?」
なかなか目を覚まそうとしない水月のその眠りを覚まさせたのはなんと祐だった。
俺はあの時、祐と水月の間に深い絆を感じた。
祐「まぁ、あれは偶然だったのかもしれないけどね。けどあの時、俺は凄く後悔したんだ…」
力「…ん、おまえ、学校では水月に冷たかったもんな。」
当時、思春期に入りかけていただろう祐は人目を気にして水月を避けるように行動していた。
とはいえ、俺等のいないところでは彼女に対する接し方は違っていたようだが。
力「あの時のおまえと今のおまえとじゃぁ、ホントあり得ねぇくらいなんつーか甘いよな?」
再会後の祐の水月に対する言動――
とにかく甘い。
俺が同じ言動をしたら絶対に水月が疑うようなことをサラリとやってしまう。
そんな祐を見ていて俺はそれが少し羨ましく思う。
だが、俺はそんなことは絶対できそうにないだろうし、あえてそれをしようとも思わない。
それは部活の時も同じだ。
水月が根をあげそうになったら、祐はかなりレベルを下げて彼女の機嫌を損ねないようにやっていると崎田からも聞いたし、実際、俺もそれを目の当たりにした。
俺から見れば、そんなやり方じゃ、インターハイになんて間に合わないのではと思っているのだが。
祐「甘い?そうかな。ていうか、俺、愛梨のコト、凄く好きだって思い知らされたから、あの時。愛梨が入院して危なかった時にさ、俺の中で『漠然と好き』という気持ちから『かけがえのない大切な女の子』になったんだよ。だから、愛梨のことを大事にしたい、後悔したくないって思ってるから自然とこういう風になってしまうんだよ。」
そう言って水月のことを思い浮かべている祐の表情は穏やかだ。
力「だったらさ、あの中学二年の県大会の時は一体どうしたってんだよ?大体おまえがあの時、水月にあんな対応しなけりゃ俺だって…」
俺は運命の変わったあの日のことを思い出していた―――
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