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男ならそんな簡単に一度発した言葉を撤回して欲しくなかった。
俺が知ってる祐はそんなヤツじゃなかったはずだ。
祐「気が変わったんだよ。なんていうか……そう、母さんの病気のこともあるし……あ……力に言ってたかな?」
そう言って祐は苦笑いしながら話を逸らしているのは見え見えだった。
力「…誤魔化すなよ……祐……おまえ……水月に手ェ出そうとしただろ?」
その言葉に祐の表情が一気に険しくなった。
祐「…愛梨から……聞いたか…」
そういうと祐は溜息を洩らしながら天井を仰いだ。
力「ん…水月は何も言わねーよ。つーか、アイツは俺が選手権の予選が近いからってずっと黙ってたよ…」
水月は俺にヘタな心配をかけないようにと、その出来事を自分の胸に留めていた。
祐「そっか…。…じゃぁ、俺が愛梨にしたコト、全部知ってるってことだね。」
そういうと祐はその髪をかき上げた。
そして俺を真っ直ぐ見て――…
祐「…力……俺、愛梨を抱こうとしたよ…」
河合や水月本人からもその事実を確認していた俺だった。
だが、やはり本人の口から聞くとそれが真実味を帯びたものとなる。
俺はその現実に打ちのめされていた。
祐「あいつさ……俺に凄い感じてたんだよ。あり得ないってくらい濡れててさ。なのに……あいつ…ずっと泣いてんだよ……おまえの名前を呼びながら…」
そういうと、手でその顔を覆った。
祐「何でだろうな……あんなに俺のこと好きだって言って追っかけてくれてたのに…」
祐のその言葉が俺の胸を締め付ける。
そして俺はそんな祐に何を言っていいのか分からない。
祐「…カラダは反応してんのに心が……俺に全然向いてないんだよ。それが凄く悔しくて……気づいたら、俺……愛梨に酷いことしてたんだ……取り返しのつかない……」
祐のその顔はただ後悔に満ちていた。
けど、そんなことをされてもそれでも水月は祐を嫌いになれないと言っていた。
それがどういう意味なのか。
水月にとって祐は『特別』というだけじゃない。
水月はまだ気づいていないそれを、俺は気づきそうになりながらも、心のどこかで否定し続けていたのだが、もう留めておくには限界で――…
力「けど、おまえは水月を抱けなかった……最後まで……できなかったんだよな?抱こうと思っても……抱けなかったんだろ?」
祐「……力……」
力「俺……おまえの気持ち、分からねーでもねーから……」
祐「え?」
力「俺もさ、おまえと水月が遠距離の時、あいつへの気持ちを抑えきれねーって思った時あったからさ…」
祐「…えっ……力が…?って……もしかして……」
力「…あぁ……けど、もちろん水月がおまえを想っていた時は手ェなんてつけてねーからよ。あんなおまえを想うあいつを見てたらさ……もうなんつーか…なぁ…ハハッ…」
なんつーか、もう諦めるも何も、応援してやりたいという気持ちの方が先にきていて――
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