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祐の眠っていた間に既に大泉グループ内では様々なことが動きだしていた。
俺は知る限りのことを祐に伝えた。
力「おまえが目を覚まさない間にいろんな展開があってな。ん、おまえはもう継がなくていいんだよ。」
祐「…え?…それ……けど……父さんは…」
力「おまえには好きにさせてやりたいんだろ?やっぱ親父なんだよ。お袋さんも言ってたぜ?息子には同じように苦しんで欲しくねーんだよ。それに今回のことがあって尚更思うところがあったみてーだしな。」
祐の親はやはり普通の親だった。
俺が幼い頃に見ていた、そして水月から聞いていた普通の感情ある親。
祐「…そんな……それじゃぁ……けど……」
その現実をなかなか受け入れられないでいる祐。
おそらく、まだ親の心配をしているに違いない。
力「…祐……もう決まったことなんだって。つーか、おまえさ、親に甘えたことなんかねーだろ?」
祐「…ん……それは……」
力「いつまでも親はいねーんだぞ?甘えられる時に甘えておいたってバチは当たんねーと俺は思う。それにさ、それをおまえの親は望んでいると思う…」
祐「父さん…達が…?」
祐はあまりに大人を演じ過ぎた。
それは親だけじゃなく周囲に対しても。
祐は幼い頃からいつもとにかく迷惑かけないように、心配かけないように冷静ぶっていた。
俺は当時、それを崩すことが正直楽しかった。
俺の前だけで祐のポーカーフェイスが崩れる時、それは俺にとっての最高の瞬間だった。
力「まだまだガキでいいじゃねーかよ。嫌でも俺達は大人になるんだぜ?親の前では迷惑かけまくるガキでいいんじゃねーの?」
それで俺はいいと思っている。
っていうか、そうありたいと俺は思っている。
俺なんて親に相談せず勝手にいきなり県外の私立高校へ進学することを決めて驚かせた。
フツーなら金も相応かかるし親に相談すべきことだったのかもしれない。
けど、もし反対されたらそれはその時だと思っていた。
つーか、どんなカタチであれ、そのコトに親が反応してくれることは俺のことを思ってくれていることだ。
勝手わがまま言って親を困らせることもコドモの特権だと俺は勝手に思っている。
単に俺がわがままなだけなのかもしれないが。
祐「…そう……かもね。確かに俺さ、親にあまり甘えたことないんだよね。今から甘えても……遅くないかな?」
祐の頬は少し赤みを帯びていた。
力「全然だろ。逆におまえのお袋さんなんか病気吹っ飛ぶかもよ?…ハハッ…」
祐「…ん…そうだといいな。…ん……甘えてみようかな。そうだね。ん、やっぱり俺、走るの……好きだしね。」
祐のその顔は希望に満ちていた。
力「それでこそおまえだよ。…ん…じゃぁ、俺もおまえの復帰の日に備えておかねーとなぁ。」
祐「…えっ?力、まだあの勝負やるつもりじゃ…」
力「当たり前だろっ。俺は売られた勝負は絶対に買うって言っただろ?」
祐「…プッ……相変わらずだね……力は…」
祐がたまらず俺のその言葉に噴き出した。
力「それに俺が同じ舞台で待ってねーと、おまえもやる気が起こんねーってもんだろ?」
祐「…プッ……っていうか、同じ舞台になんて上がってこれるの?」
力「何が何でも上がってやるってんだよ。全中覇者が高校インターハイも制してやっからよっ!」
祐「その自信……相変わらずだね……クスッ…」
祐は呆れた顔で俺を見た。
力「将来の陸上界を背負うアスリートを破ったっていう伝説でも残すかな…ハハッ」
祐「…ははっ……ん…じゃぁ、期待してるよ。」
どうなるか分からない。
だが、俺はこの時、そのつもりで祐と同じ舞台に上がろうと思った。
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