その笑顔があれば

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力「そろそろ、俺、行くわ……」 祐「えっ…どこへ?」 病室の時計を見るとちょうど正午。 この時間ならまだ今日の部活に間に合いそうだ。 祐が目を覚ました今、ここでの俺の役目はもうない。 そして俺にとってこれからの時間は貴重過ぎるほど貴重な時間。 力「どこって……甲子園だよ、甲子園!」 祐「…クスッ……甲子園かー……っていうか、まだ予選も始まってないのに気が早いっていうか…」 力「何言ってんだよ。俺が投げるんだぜ?予選なんかあってねーようなもんだってんだよ。まぁ、予選は肩慣らしだな。」 近づく選手権予選。 俺達はシード校。 しかも第一シードだ。 そして俺の登板は大会前だというのに既に全国で噂になっていると監督から聞いていた。 祐「じゃぁ、本番はテレビでどれだけの実力か見せてもらおうかな。」 力「そうだな。リハビリ室ででも見て『ヤベー』とか思って焦ってなって。ぜってーやる気出んだろっ…ハハッ…」 間違いなく、祐を焦らすピッチングをして驚かせてやろうと俺は思っている。 祐「ん……そうだね。愛梨に肩貸してもらってキスでもしながら見てるよ…きっとやる気出る…クスッ…」 焦らそうとした俺だったが、逆に俺は祐のそのセリフに焦らされてしまった。 力「…なっ……つーか、おまえから手ェ出すのはルール違反だってのっ。そんなコトしたらソッコー水月は返してもらうからなっ!」 そんな不安な俺に祐が更に追い討ちをかけてくる。 祐「…クスッ……違うって。愛梨が俺にキスしてくれるんだって…」 力「…っちょ……おまえ…んなことあるわけねーだろっ!」 とか言いながらも、傍に居れば祐のその甘いマスクとセリフにまた水月が引き込まれてしまうんじゃないかと俺はちょっと不安になってしまった。 自分で水月を祐にあてがった癖に早々に俺に後悔の波が押し寄せてくる。 その時だった。 ……バタバタンッ……… 突然開かれたドア。 そして、俺達がほぼ同時にその方向へと目をやると、そこには息を乱しながらやってくる彼女の姿。 愛「…な……何してんのっ!どうしたのっ?」 カーテンを避けた彼女はそのまま俺達のいるベッドの方へと近づいてきた。
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