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ジャックの足が止まった。じっと立って耳を澄ませている。俺の中の今日の目的地だ。
「エド。水の音が聞こえる」
「そうか? どうする?」
「……さっき、結構水飲んだと思う。きれいな水なら汲んどいた方がいいよね」
「分かった。ついて行くよ」
ジャックはまた耳を澄ませた。しばらくして右を向いた。
「こっちに行く」
「どうして?」
「近くに聞こえるし。何となくだけど、右から左に流れてる気がするんだ」
「なぜそう思う?」
「左っ側の方が水の音が強い気がしない?」
「じゃ、大きく聞こえるならそっちが近いだろう?」
「ううん、近いのは右だよ。ただそっちは水の音が……どう言ったらいいのかな、細い気がするんだ」
「細い?」
「うん、細いんだよ。で、左っ側は太いんだ。なんかで…… 映画だったかな、上流に行くのがいいって言ってた。それって右だと思う」
「細いのが上流だってどうして分かる?」
「エド、川の水がだんだん少なくなっていくって変だよ」
『教えよう』、そう思っていたことのほとんどが持って行かれた。映画も役に立っているようだが、理屈と勘のバランスがいい。この子には天性のハンターとしての素質があるのかもしれない。
そこから10分ほどで川に出た。さて、どうするか? ジャックは川を覗いている。その辺りを歩き回り出した。
「ここからなら下りれそうだよ、エド」
そう言いながら下へ下りていく。
「ジャック、止まれ」
こっちをふり向いた。
「少し足元がぬかるんでないか? 土が柔らかいだろう」
足元を見て頷く。
「足をな、横に向けて下りていけ。後ろになる足に体重をかけろ」
ジャックの足が横を向いた。
「どうだ?」
「下りやすくなった! さっきより滑らないよ、エド!」
「良かったな。それにその方がもし滑り落ちそうになっても何かに掴まりやすくなるんだ」
こっちを向いた顔がニコッと笑った。
「OK、エド」
また下り始めながら「ウェス、じっと待ってろ」と弟に声をかける。ウェスリーはその声を聞くとしゃがんで待った。
しばらくして上ってくる音が聞こえた。
「ウェス、おいで。俺の手に掴まれ」
迷いなく、怖がること無くジャックの手を握るとウェスリーが下り始めた。この二人の信頼関係は小さいくせになかなかのもんだ。5歳ともなればこんな所を下りるのは怖いはずだろうに。
「エドは呼ぶまで下りて来ないで」
俺は言われた通りに待った。どうしても口元がにやけてくる。改めて思う。こいつはいい生徒を持ったかもしれん。
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