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「いいよ、エド! 下りてきて!」
ジャックのそばに立った俺はまた質問を始めた。
「どうして俺に待てと言った?」
「だって、もしエドが足を滑らせたらウェスが危なくなる」
「俺の手は握らんのか?」
自分で言って吹き出しそうだ。
「だって……必要?」
「俺みたいなヤツじゃなくて、素人の大人ならどうする?」
「……やっぱり自分で下りてもらう。俺らが下りた後に」
「どうして? 先に助かりたいか」
「そうじゃないよ! 大人が先に行って滑ったら、その場所危なくなるじゃないか。俺とウェスなら体重軽いから滑りにくいよ」
「そうか……」
それは考えていなかった。ジャックは先に下りた大人に助けてもらおうと考えていない。他人を信用していない証拠だ。
「お前が待ってろってウェスリーに言ったな。あの時、すぐにウェスリーはしゃがんだ。何か意味があるのか?」
「ダッドがいつも言うんだ。危ない時はウェスをしゃがませろって。ウェスに当たる攻撃の面積が減るからって」
「ウェスリーに当たる攻撃? お前は?」
「俺は様子を見なくちゃ。一緒にしゃがんだら分かんなくなるよ」
「親父はお前にはしゃがむなって言ったのか?」
「言わないよ。でもしゃがめって言われてないし。俺はウェスのそばに立ってるんだ」
俺は内心腸が煮えくりかえっていた。なぜ二人の育て方が違うんだ、ウィル?
「親父はお前にキツイか?」
「う~ん…… 俺、兄貴だし。ウェス守るの、俺だし。当たり前のこと言ってると思うよ」
何が当り前だ! 二人を養子にでも出した方がよっぽどマシだろう!
「お前は今の暮らしに納得してるのか? つまり、いいのか? これで」
「ウェスといられるなら他はどうでもいいよ」
「銃や敵のことを考えなくてもいい生活だってあるんだぞ」
「ダッドが決めることだよ」
「お前、こうしたいとかこうなりたいとか…… 夢は無いのか? 今のままじゃお前もハンターになっちまうんだぞ?」
俺は何を言ってるんだろう…… すでにこの子はこの世界に入っちまってるのに。
「夢って…… ウェスのそばにいることだよ。俺、それでいいよ。ハンターになったらダッドを手伝ったり助けられる。それでいいよ」
「俺には…… 分からん……」
なんでこの子はまだこんな歳なのにもう全てを家族に投げ出してるんだ?
ぽつん。足元の小石が濡れた。慌ててジャックの顔を見た。
「どうした!」
初めてだ、こんな顔を見るのは。
「エド…… 俺、エドが好きだ…… でも……」
でっかい目に涙が溢れていた。
「今、さよならって…… そう言われた気がした……」
俺は自分がその小さい肩を抱きしめていることにも気がつかなかった。
「ばかたれ、そんなこと言うもんか! ばかなこと考えるんじゃない。俺はいつだってお前の味方だよ」
「エドは俺がハンターになるの、反対なの?」
「お前が決めることだ。親父じゃなくてな。それなら構わん。俺はそう思ってる」
「ダッドは俺にハンターになれって言ったことはないんだ」
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