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ああ。言ってはいないだろうな。でもな、今のこの状況は刷り込みってやつなんだよ。お前にはハンターになる以外のレールは用意されていない。本当はレールだってまだ無いはずなのに。
そう言ってやりたかった。けど俺にはジャックを抱きしめることしか出来なかった。
不意にジャックの手に力が入った。しっかりと俺の背中に掴まっている。
「俺…… こんなことされたの、マムがいなくなってから初めてだ」
ウィルがそばにいなくて良かった。下手すると俺はヤツを撃ち殺していたかもしれん。
「エドの匂いってさ、不思議な匂いだよね」
「臭いか?」
「違うよ。機械の匂いと、紙の匂いと…… エドの匂いだ」
俺は笑った。
「結局俺か?」
「うん。エドはエドの匂いなんだ。エド」
「なんだ?」
「泣いたの、ダッドに言わないで」
「言わんよ」
「それから…… ダッドを怒らないで。俺の返事になんか悪いことがあったんならそれ、俺が悪いんだ。ダッドのせいじゃないよ」
俺はそれ以上何も言えなかった。小さな背中をぽんぽんと叩いた。
「お前は何も心配しなくていいんだ」
いつの間にかウェスリーがジャックの腰にしがみついていた。
「ジャック、お腹、痛いの?」
俺はウェスリーの頭を撫でた。
「ウェスリー、ジャックはちょっと疲れただけだよ」
この子にはどんなレールを敷くつもりなんだ? 俺にはもう、この二人は誰かの子じゃなくなっちまっていた。この二人は、ジャックとウェスリーなんだ。そしてウェスリーはウィルの子どもじゃない。ジャックの弟だ。俺はそこにデカい差を感じたんだ。
川は生憎濁っていた。先週降った雨のせいだ。ウェスリーは持って来た荷物の上に座らせた。ジャックは水筒を手に、途方にくれたような顔をしている。
「ジャック。もう水はほとんど無い。どうする?」
「帰るしか無いよ、エド。だってこれ以上無理だよ」
「そうか? ジャック、いろんなことを想像するんだ。もし本当にハンターになるなら、水が無いくらいでいちいち山から戻ったり出来んぞ。工夫する。何でも使う。引き返すのはな、相手を倒した時か、倒す手段が見つからん時だけだ」
俺は川のそばに穴を掘り始めた。少しずつそこに土の中を伝わって、川の水位と同じくらいの水が溜まった。水は穴から溢れ出したりしない。
「その辺りの乾いた木を拾って来い。細いやつがいい」
ジャックが薪になりそうな木を何本も拾って来た。太い木は俺が取った。残った木をジャックの前に置く。膝に当ててポキンと折った。
「やってみろ」
何本かが小気味よくポキンと音を立てて折れていく。
そのうちどう力を入れても折れない木が出てきた。
「それはだめだ、中が生きてる。だから折れないんだよ。これを生木って言うんだ。映画なんかで見ないか? 木を火に放り込む前に折るだろう? あれは木を確かめてるんだ、燃える木か燃えない木か。生木は燃えないんだ。それどころか体に悪い空気を出す」
「火はどうするの? マッチとかライター?」
「それがあればもちろんいいがな、無かったらどうする? 自分で作るんだよ」
ジャックは目を丸くした。
「自分で火を作るの!?」
「そうだ。さっき言ったろ? なんでも自分で考えて工夫するのさ」
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