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「さて、本当の問題は何だったかな?」
ジャックは目をぱちくりさせた。どうやら肝心なことを忘れていたようだ。
「え、と……」
俺は水筒を見せた。
「あ! 水だ! 水が無かったんだ!」
「思い出したか。さあ、飲める水を作るぞ」
水筒を出して、川のそばに掘った穴の水をすくった。時間が経っていたから上澄みは透明になって下の方と分離している。いつも持ち歩いている小鍋にそれを注いだ。薪の壁に生木を置いてそこに鍋をぶら下げる。
「川で一番頭に入れておかなくちゃならんことは、川を信用しちゃいかんということだ。水も魚もカニも、全部だ。生で口に入れちゃいけない」
「どうして? 魚やカニは分かるけど。生で食うのはいやだし」
「寄生虫が多いんだよ、海と違って。しっかり火を通せば大丈夫だ。よほど追い込まれなきゃ、生水は飲むな」
「寄生虫?」
ジャックは うげ! というイヤな顔をした。そりゃそうだ。常に動いている水は一見きれいに見える。しかし、川には常に動かない岩がある。その下の方に寄生虫が発生しやすい。そして魚たちはその中で生きている。
「分かった。しっかり火を通せば大丈夫なんだね? ウェスが食べても大丈夫?」
「ああ、やることをきちんとやっておけば大丈夫さ。だからこういう勉強が必要なんだよ」
「うん! エドの話、ちゃんと聞くし忘れないよ。たくさん勉強する!」
俺は沸騰した水を冷まして飲める水にした。
「腹が減ったろう?」
「うん、ぺこぺこだよ!」
最近ジャックはよく食べるようになった。食えるうちに食え! 次にいつ食えるか分からんぞ。そんな俺の言葉にしっかりと食べるようになった。
ウェスリーもぷっくりとし始めている。二人が笑いながら食事する風景が俺の生活に火を灯すようになっていた。
「釣りをするぞ」
「でも、釣り道具無いよ」
「そういう時は?」
周りを見回し始めた。
「棒がいるよね。あと、糸と針。でもそんなもの無いよ?」
「さっき弓を何で作った?」
「蔓!」
残っている蔓を裂いて、糸が出来た。
「針は? 針はどうすんの?」
「針ってのは尖ってりゃいいだけさ」
木くずに穴をあけて、ナイフで先を引っかけが出来るように尖らせていく。棒と針を蔓で繋いだ。あっという間に釣り竿の出来上がりだ。餌は周りに幾らでもある。
ウェスリーにも釣り竿を持たせた。初めての体験にようやくウェスリーは声を上げ始めた。
「ジャック! エド! 何か引っ張ってる!」
ジャックより先にウェスリーの釣り竿に当たりが来たらしい。
半分悔しみながらも、ウェスリーのそばに駆け寄り一緒に竿を引っ張っている。
「おい! 引っ張り続けるな! 緩めたり引いたり、魚の動きたい方に行かせてやるんだ。そのうち疲れてくれば釣りあげられるぞ」
「ウェス! 少し力抜こう」
「やだ!」
「せっかくの魚が釣れなくなるぞ」
ちょっと不貞腐れたような顔をしつつも、ウェスリーはジャックの言う通りに竿から手を緩めた。
せっかくの初当たりだ。釣らせてやりたい。俺もそばにいって、あれこれと教えてやった。
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