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その子たちを連れて来たのはウィルという男だった。彼はハンターというにはアマチュア過ぎて、マットからの紹介じゃなけりゃ面倒見るのはごめんだという部類の人間だった。最初から態度はデカく、頭を下げることを嫌う。
ただその目は追いつめられた獣のようで、こういう目には覚えがあった。魔物というこの世では有りうべからざるモノたちの存在を叩き込まれた時に見た鏡の中の俺の目だ。
家族持ちには見えず、無口で愛想無しの野郎だった。食事は勝手に自分の分を作り、自分の分の洗濯以外家事には一切手を出さない。これは有り難かった。俺も人に面倒見られるのは好きじゃない。
ソファの上の乱れた様子から寝ていることは分かったが、眠っているのを見たことが無かった。
ウィルの狩りへののめり具合は常軌を逸していた。
「今のままじゃすり減っちまうぞ」
何度もそう言った。
ハンターになるには強い動機付けが必要だ。でなけりゃ命のやり取りなんぞには飛び込んでいけない。甘えも油断もただの命取りで、そこに同情の欠片さえ入る余地は無い。全ては自分の不始末という訳だ。ウィルには強い動機があり、そして自分に対して容赦なかった。
武器の訓練、資料の収集、ラテン語やらシュメール語、その他の言語、呪文や印について片っ端から教える傍ら、俺がヤツに叩きこんだ幾つかのことがある。
――自分のヘマに他人の命を引きずり込むな
――死ぬなら1人で死ね
――魔物を殺すことに躊躇うな
――必ずとどめを刺せ
彼は知識に貪欲だった。俺の本は片っ端から読み漁り、分からないことは自分で調べ上げ、俺に聞くことは滅多にない。
何度か狩りに連れていき、そしてラッセルというハンターに預けた。ラッセルも風変りでおよそ教えることには向かないヤツだが、知識量も経験も人一倍ある。荒っぽいが仕事を吸収するにはもってこいの相手だった。
それからかなり経ってウィルはやって来た。子どもらを連れて。家族持ちだとは思わなかった。ましてこれほどの小さな子どもたち。
「頼む。2日ほどで戻る。子どもたちは手はかからん」
それだけ言うとさっさと出て行った。俺がたまたま手が空いてたから良かったものの、そうでなかったらどうするつもりだったのか。
無口な子どもだと思った。あの父にしてこの子あり。下は3歳くらいか。
「お前、なんて名だ?」
「ジャック」
「幾つだ?」
「もうすぐ8つ」
必要以上は喋らず、後は黙って弟を抱えている。周りに目を走らせて全く安心していなかった。
「その子の名前は?」
「ウェス」
「眠ってるな。2階に寝室がある」
俺も子どもの扱い方なんぞ分からん。
「ウィルのヤツ、面倒なことを押しつけやがって」
そんなことを呟きながら2階の寝室へと連れて上がった。
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