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「好きなように使って構わん。ただアレコレと触ったり壊したりするな」
ジャックは頷いた。ベッドにウェスを下ろすこともなく、部屋の中を見回している。
「どうした?」
「この部屋は安心?」
ジャックがハンターの息子なのを思い出した。その言っている意味はすぐ分かった。どうやら相当ウィルに仕込まれているらしい。
「俺のウチは塩やら薬草やらで覆われている。お前の聞きたいことがそういう意味なら何も心配は要らん」
それを聞いてジャックはやっとウェスをベッドに下ろした。窓に寄って撒いてある塩と薬草を確かめる。俺は黙ってそれを見ていた。俺の作っている薬草は、ある程度の魔物には効果がある。ヤツらはこれを好まない。
あちこちひと通り見たところで、「納得したか?」と聞くとしっかりと頷いた。
ようやく警戒を解いた顔には、打って変わったような笑顔が浮かんでいた。
少々呆れながら尋ねた。普通の子どもがどんなだか知らんが、明らかにジャックはその子らとは違っている。
「腹は減ってるか?」
ニコリと笑うその顔に、思わず釣り込まれる。俺らしくもない。好みなんぞ聞かずに俺の昼の残りを出すと文句も言わずそれを食った。
「おじさん」
「エドでいい」
「本当にハンター?」
「ああ」
俺も愛想無しだなと心の中で自分を笑った。
「ダッドに、エドからいろんなことを教われって言われたんだ」
「いろんなこと?」
「うん。ウェスを守るために必要なこと」
「たとえば?」
「それはエドに任せるよ」
俺は子ども相手に喋ってるんだよな 一瞬そんなことが頭によぎった。ウィルはこんな小さな子に何を要求する気なんだ?
「ウェスは……」
「ウェスリーだよ。ウェスって呼んでいいのは家族だけだ」
「まあ、いい。ウェスリーはまだ3つだな。お前に弟を守れると思うか?」
「だからエドに教えて欲しいんだ、俺でも出来ること。ウェスを守るのは俺の大事な仕事なんだ」
俺は頭を抱えた。こんな子に何が出来るというんだ。
「さっき部屋を見回してたんだから塩や薬草の効果は知ってるんだな?」
真っ直ぐ目を見て頷く。この子の表情は豊かだ。そして真面目な子なのだと思う。
「机の上での勉強は好きか?」
質問が終わる時にははっきりと頭を横に振っていて、それがバカに可笑しかった。
「そうか。それじゃこの先苦労するぞ」
いつの間にか俺は笑っていた。この子といるのは退屈せんで済むかもしれん。
「エド、俺、体動かす方が好きなんだ。そっちの方教えてくんない?」
「じゃこうしよう。ここに来た時は机1時間、体2時間。それなら手を打つよ」
ジャックは真剣に散々考えた挙句、子どもとは思えない返事をした。
「OK、エド。バカじゃウェス守れないしね」
その潔い返事は小気味良かった。
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