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2階からウェスの声が聞こえてきた。
「起きたみたい」
「言っとくが俺に子守は出来んぞ」
「俺がやるから大丈夫」
そういうとトントンと駆け上がって行き、しばらくして連れて下りてきた。
「トイレどこ?」
「あっちだ」
「サンキュー、エド」
正直に言おう。その時には俺はジャックが気に入っていたんだ。買い物なんかで見かけるよくある子どもの無駄口が全く無い。多分普段からあの無口な親父といるせいだろう。ヤツが子育てをしているところなんか想像も出来んが。
部屋に入ってきたジャックは椅子にウェスリーを座らせた。
「にいちゃんが来るまで待ってるんだぞ」
ウェスリーは2階へ上がっていくジャックの後ろをじっと見ている。どうやらこの子も手はかからんらしい。ウィルの言った通り子どもらに煩わされることは無さそうだ。
ジャックが荷物を持って下りてきた。中からシリアルを出す。
「牛乳あったら分けてもらえる?」
「無かったらどうするんだ?」
「缶詰めのスープなら持ち歩いてるんだ」
俺は冷蔵庫からミルクを取り出すとテーブルの上に置いた。
「ありがとう。良かった! ここんところ缶詰めばっかりだったんだ、ダッドがいない日が続いてたから」
一体どんな生活を送っているのか。俺はジャックの肩や腕を触った。
「もっと肉を食わにゃならんな。好きなもんはなんだ?」
「肉! でも肉なら食べてるよ。俺、バーガー好きだから」
「そいつは肉とは言えん」
まったく、ウィルは何を考えてるんだ。俺は子育てを知らんがこの子の状態がいいと言えんのは確かだ。
「ここにいる間はまともな肉を食わせてやる。銃を触ったことはあるのか?」
当然のことのように頷く。
「手入れならダッドに教えられているから」
これもいいとは思えんが、身を守る術は知っておいた方がいい。この世界に踏み込む以上、子どもであっても知識と技量が必要だ。
「じゃ、武器の使い方と知識を教えてやる。そのうち狩りにも連れていってやろう」
「狩りに連れてってくれんの!?」
「山の中の普通の狩りにな」
あきらかに落胆した顔だ。
「普通の狩りも出来んヤツにライフルがまともに扱えるとは思えんからな。ウィルにもそれを教えたよ」
途端に尊敬の色が顔に浮かぶ。
「ダッドがエドに習ったの!?」
「ああ。ウィルは筋が良かった。意味は分かるか?」
つい大人相手のような言葉遣いをしていることを思い出し、この子にはどれくらい言ってる意味が伝わっているか心配になった。
「それの意味は分かるよ。分からないことがあったら聞く」
余計な心配をしたのが分かった。この子なら物おじすることなくいろいろ尋ねまくることだろう。
「これからはお前を預かるたびにいろんなことを教えてやる。だから覚悟しておけ」
「了解、エド」
この2日間は、どうやら俺にもいい気晴らしになりそうだ。車の修理を見せると、目を輝かせて飽きもせずに眺めていた。
そんな調子で俺は何回も子どもらを預かるようになった。時には1日。長くて3、4日。来ない時は何ヵ月も来なかった。
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