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「しばらくだな」
言葉も出さずに抱きついてくる。こいつの抱きつく時間の長さで俺には分かる。
――何をこんなに我慢してたんだ?
やっと手を離して、少しはにかむように「やぁ、エド」と答えた。
「元気そうじゃないか、ジャック」
――何があったんだ?
「あれ? あの車、まだほったらかしか? エド」
「だからあれは修理できんと言っただろう」
「出来ないんじゃなくて、する気がないってことだろ?」
「分かってたら聞くな」
その言葉に声を上げて笑った。俺は持っていた工具を台の上に放り投げた。
「飯でも食わんか? もう陽が落ちてきたし、俺も腹減った」
「いいねぇ! そういや俺も何も食ってなかったよ」
「どうした、今日は一人か?」
聞きたいことは山ほどあるが、フライパンの手を休めなかった。無理に聞きだすことはすまい。
こいつがこんな顔でここに来るのはよほどのことがあった時だけだ。一番最近ではウェスリーが大学に行った夜だったな。浴びるほど酒を飲んでそのままテーブルに突っ伏して眠っちまった。
2日ほどいて帰る間際に『あ、そうだ』と車のドアを開けながらついでのように言った。
『ウェス、大学に入ったんだぜ。じゃ、また来る』
――今度はなんだ?
「ああ、しばらくのんびりしようと思ってさ。さっきの車、俺触っていいか?」
「物好きだな、お前も。ありゃどうやったって動かんぞ」
「いいんだよ、そんなの」
俺は眉を上げた。こいつ…… 自棄になってる。
「今夜さ、泊っていい?」
「構わんよ。たまに使わんと2階も荒れ放題になっちまうからな」
「俺…… エドんとこ、好きだぜ。埃っぽいところがいいや」
「褒めてんのか? けなしてんのか?」
「どっちかな」
笑いながら階段を上がっていく。ゆっくりとした足取りだ。どうも今回は重症のようだ。
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