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夜中、物音で目が覚めた。冷蔵庫の閉まる音だ。
ジャックか。テレビでも見るのか? あいつがこんな夜中に冷蔵庫を開ける音には、対になってテレビの音が聞こえる。だが今夜は違うようだ。テレビの音がしない。
ベッドに起き上がってただじっと耳を澄ました。しばらくすると、また冷蔵庫のドアが閉まった。そのまま静かな夜が続く。また冷蔵庫の音。
おい、そんなにビールの買い置きは無いぞ。飲むものが無くなっちまったらお前、どうすんだ? また息詰まっちまうんじゃないか?
小さかった頃をつい思い浮かべちまう。余計な我慢することばっかり覚える子だった。俺が子育てを知ってりゃもっと何とかしてやれたかもしれんのに。
あの頃はしてやりたいことが多かったのに、今じゃしてやれなかったことを後悔することが多い。何かが欠けた子になっちまった……
冷蔵庫のドアが開かなくなった。そうか、もう飲んじまったか。来ることが分かってたらもっと買っといたんだがな。
そう思った時に思い出した。確かいいウィスキーがあったはずだ。俺は寝室のドアを開けた。
「電気くらいつけろ」
泣いてたらしいことは分かっている。だから声をかける。涙を引っ込める時間をやるんだ。
――それくらいこいつが手に入れたって構わんだろ?
『運命』ってヤツがいるならそう言ってやりたい。
「ごめん、エド。起こしちゃった?」
「年寄りになるとすぐ目が覚めちまうんだよ」
「エドは年寄りじゃないさ、まだ」
「いい酒がある。飲むか?」
「ちょっともらおうかな」
電気がついた。ってことはお前を見て構わないんだな?
「そんなとこに隠してんのか。きったねぇ」
「何を言う、俺の酒だ。どこに置こうが俺の勝手だ」
本の奥に置いていたウィスキーを出す。実はここに置いたことをすっかり忘れていた。でもこんな晩にはお前にはこれが必要だろう。
ジャックがテーブルにグラスを2つ置いた。
「俺は一杯飲んだら寝るよ。寝酒が欲しかっただけだからな」
そう言ってわずかに注いだ酒を立ったまま煽った。
「先に寝るぞ。明日はあの車好きにしていい」
「サンキュ、エド」
笑う目元が赤い。 泣きたいから来たんだろうに、本当に不器用なやつだ。邪魔したくなくて俺は寝室に入った。気にしながらもまぶたがとろとろと落ちてくる。
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