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その夜、買って来たビールを片っ端から開けて喋って笑って、そして朝にはジャックはいなくなっていた。
携帯を握ってジャックのダイヤルを押そうとしてやめた。
――いつでも来い。
――俺んとこはお前にはドアなんて無いぞ。
――いつでも帰って来ていいんだ、ジャック。俺のところがお前の家だ。
携帯を握り直す。長いことかけなかったダイヤルを押した。2回鳴って相手はすぐに出た。
「やあ、元気か?」
『エド! 元気だよ!! ……かけてきたってことは何かあったんだね?』
「ああ。お前が心配してたことはこういうことだったのかってな。ウィルはジャックを手放したみたいだぞ。前置きも無くな」
『あのクソ親父!』と毒づくのが聞こえた。
『で、ジャックは!?』
「朝にはいなかった」
『行先』
「分かるよ、GPS起動させておいたからな。けどお前どうする気だ? 返答によっちゃ教えるわけにはいかん。これ以上ジャックをお前たちのオモチャにさせる気はないからな」
しばらく無言が続いた。
『エド、僕はこれ以上ジャックを独りにする気はないんだ。クソ親父のことはどうだっていい。必ずジャックを連れてそっちに行くよ。頼みがあるんだ』
「なんだ?」
「僕は錆びついてる。ハンターとして鍛え直してほしい』
「いいのか? もう戻れんぞ。ジャックには他に生きる道は無いからな」
『だから。僕がジャックのそばにいる。そしてジャックに守ってもらうんだ。それから戻る場所ならあるよ。エドのとこがそうだからさ。だからジャックは必ずエドんとこに行くんだよ』
訓練の話を引き受けた。ジャックの居場所を教えた。目の前にウェスが現れた時のお前の顔が見たい。お前が求めていたものだ。
失くしたのに、荒れることすら出来なかったお前。しっかり掴んで、二人で俺んとこに来い。
久し振りにお前も鍛え直してやる。
どれ、ビールでも買ってくるか。しこたまな。
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