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2年も経ったある時、ウィルが4日で帰ってきた。俺はウィルに詰め寄った。
「あんたが頼むからじゃない。あの子が見ちゃおれんから預かっている。ジャックはあの小さな体でウェスリーに対する責任を一身に背負うつもりだ。一体あんたは何を考えているんだ?」
「俺は息子を預けはしたが、家族の在り方にまで首を突っ込んでもらうつもりは無い」
こうなればウィルがテコでも考えを曲げることがないのは知っている。逆にことをこじらせるだけだ。
「分かったよ。そのことについて話すのは今はやめよう。次はどこまで行くんだ?」
「イリノイに行く」
「……子どもらを連れて?」
「ああ、そのつもりだ」
「置いていかんか?」
途端にウィルの顔には疑問と警戒心が現れた。
「俺がジャックと一緒にいるのはほんの僅かだ。それじゃ何も教えることは出来ん。じっくり体の作り方も武器の扱い方、薬草についても教えてやりたい。とは言っても初心者向けみたいなもんだろうが。後は俺にしか教えられんことをな」
ウィルは俺の所に来た最初の頃を思い出したんだろう。ウィルにはジャックに教えることもそれにかける時間もそれほど取れないはずだ。結論を出すのは早かった。
「あんたに預けるよ。だが今度はちょっと長い。3週間はかかるだろう。それでも構わないか?」
「構わんよ。俺の予定は空けられる。あの子らはあんたの言った通り手がかからなかった。安心して預けて行っていい」
ウィルは黙って手を出した。珍しいこった。握手を求めたんだからな。こうして二人は俺のところでゆっくり預かることになった。
その夜はジャックの知識がどれくらいあるのかを確認することで終わった。銃はまだ手入れしかしていないようだが、ライフルにはかなり詳しいことが分かった。
「撃ったことがあるのか?」
「1回だけ。ウェスを守るために。でもその後肩がずっと痛かったんだ」
「反動だな。お前の体はまだ子どもだ。銃を撃つには早過ぎるんだ。特にライフルはな。撃ち方や手入れを知っているだけでは撃てるもんじゃない。しっかり体を鍛えないと銃の反動で肩がやられる。下手をすると二度と撃てんようになる。その時それで済んだのはラッキーだったんだぞ」
「でもウェスを守るのは俺しかいないんだ!」
「お前は今幾つだ?」
「もうすぐ10」
「いや、違う。今だ。今幾つだ?」
「……9つ」
「そうだ、9つの子どもだ。自分の始末も出来んやつに誰の面倒を見れるっていうんだ?」
「けどエド! じゃ誰がウェスを守るの!?」
『お前の親父だ』、そう言ってやりたかった。でも、今のウィルにもジャックにもそれを言っても無駄だろう。
「俺はお前に正しい武器の使い方を教えてやる。他のいろんなこともな。だから必死に覚えろ。それがウェスリーを救う。時間はたった3週間だ。いいな? 俺に出来るのはそれだけだ」
こんな幼子に。それを思うのはやめた。自分が教えなければ誰が教える? その結果は?
それこそが考えたくもないことだ。なら正しい知識を身につけさせることしか俺にはしてやれない。
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