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次の日から猛特訓と猛勉強が始まった。子どもだ。時には唇を噛んで俯くこともあった。無理もない。遊ぶことが仕事みたいな年頃。それを抑えつけて俺は相手がまるで大人のように接した。好奇心旺盛のジャックの顔から徐々に笑顔が消えていく。目付きが変わっていく。まるで食らいついてくるような顔になっていった。
その中で、ウェスリーと一緒にいる時間だけは俺は一切口を挟まなかった。ウェスリーのことを口実にジャックがやるべきことから逃げることはなかった。だから唯一の安らぎの時間を取り上げることなど出来なかった。
銃の解体の仕方は知ってはいたが、俺はそこにタイム制限を設けた。
「ただばらして組み立てる。それではなんの役にもたたん。実戦では相手は待っちゃくれんからな。命がかかっているんだ、お前のもウェスリーのも」
小さな手だ。すべり台や砂遊び、ヨーヨーをしたり宿題に溜息をついたり。きっとこの子にはそんな時期は来ないだろう。小さくともこの子はすでにハンターの世界にどっぷり浸かってしまっていた。もう引き返させることなど出来ないところまで来ている。ウィルはそれが分かっているのか?
ウェスリーに向けるその顔は、温かくてただ兄だった。時にはウェスリーが駄々をこねて言うことを聞かない時もある。だが、俺が やかましい! という必要など全く無かった。
外でも中でも手を変え品を変えてウェスリーの面倒をみているジャックがいつもいる。まるで十代の兄が歳の離れた弟を育てているようなものだ。
「新しいことを教えてくれるの?」
「ああ、そうだ」
「どんなこと!?」
「そうだな。狩りはもちろん、釣り、泳ぎ方とか山の歩き方。机の勉強は、まずまともな字を書けるようになること。新聞の読み方。簡単なまじないとその効果について。時間は足りないくらいだから頑張らなくちゃならない」
「エド! 遊んでなんかいらんないよ! 釣りだとか泳ぎとか歩くとか! それに俺、字なら書ける!」
「いいか、字は人が読めるようになって初めて字と言えるんだ。お前のは字じゃない、暗号だ」
俺は途中からニヤニヤし始めた。これはかなり彼の自尊心を傷つけたらしい。
「それにサバイバルというのはな、お前の親父はきっとお前に教える暇がないと思うぞ。山のことは知っておいた方がいい。狩りは平らな場所や街の中だけじゃないからな。今は分からんでもいつかは分かるさ」
「ウェスはどうするの?」
不承不承ながら必要な知識だということは分かったようだ。だが、ウェスリーをどうするつもりなのかが不安なんだろう。ジャックにはウェスリーのことが大優先だ。離れることなんて考えられないんだから。
「連れて行くさ」
俺はあっさり言った。
「小さい時から山や自然に触れておくのはいいことだからな」
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