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質問が消えた。周りを見る。音を聞く。足元を見る。足元を見ることで、ウェスリーの歩きやすい場所を自然に確保していく。
聞くことで、俺の足が止まることがあるのに気づき始めた。俺とほぼ同時にぴたりと足が止まる。
なぜ止まった? 無言の質問。カサカサと落ち葉の音が聞こえる。蛇が頭を出した。音を立てないようウェスリーを負ぶってこっちを見上げた。俺は頷いた。
今のは毒蛇じゃない。だが、これは勉強だ。音を拾いながら歩く。それがどんなに大事なことか、教えなきゃならん。いくら頭が良くってもくだらんことで命を失うやつは大勢いる。
「休憩だ」
30分ほどして俺は水を渡した。
「まだ歩けるよ。ウェスは俺が負ぶってるし」
自分は1口水を飲んでウェスリーに何口か飲ませている。
「もう1口飲め」
「そんなに水無いし。喉、乾いてないよ」
「今、ちょっとずつ汗をかいてるだろう? もうじき、ひっきりなしに汗が出るようになる。その前に飲んでおくんだ」
「でもエド、曇ってるしそんなに暑くないよ」
何でも疑問を持つことはいいことだ。ただ言われた通りに動いてちゃ、その本当の意味を理解することは出来ん。
「ジャック、陽が当たって暑い時は自然に水分を取るようになる。だが曇ってる時は自分で考えなきゃ水分を取ることを忘れちまう。今は俺が注意するからまだいい。だがウェスリーと2人だけで山で迷ったら半端な知識じゃ命を失う。だから自分は少し、ウェスリーには飲みたいだけというのは感心せん。お前が先に倒れたら2人とも死ぬ」
ジャックが水をもう一口飲んだ。
「すぐ飲み込むな。口の中で水を転がすんだ。もうそれしか無い、そう思ってゆっくり飲め。たくさん水があってもそうするんだ。水が冷たい時は口の中であっためて飲め。腹壊すからな」
ジャックはいい生徒だ。素直で呑み込みも早い。だが知識だけが先走りしてもらっちゃ困る。だから俺はことさら丁寧に教えた。一過性の学習にするつもりは無い。
「30分で休憩にしたのはなぜか分かるか?」
「……分からない。元気なうちに歩いた方がいいと思うんだけど」
「それが一番阿呆な歩き方なんだよ。元気が無くなった時に雨が降ってきたら? まずい場所になったら? もう歩けない、そうなったら? 敵が出てきたら? さあ、お前はどうするつもりだ?」
ジャックは黙った。
「もう一度聞く。お前たち2人を守るのは、誰だ?」
「……俺」
「そうだ。だから自分をきちんと守れ」
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