第一章 ボーイ・ミーツ・ウーマン

2/18
前へ
/299ページ
次へ
 こつこつと、静かな廊下に足音が響く。廊下を歩いていた男子生徒は、二の四とプレートがある教室の前で足を止めた。課題があるというのにノートを忘れた自分のうかつさを悔やみ、半ば呪いながら、いつも通り扉を開ける。  八つの瞳がいっせいに彼に向けられた。 「えっと? ごめん、もしかして、入っちゃダメだった?」  扉を開けた男子生徒は困惑を顔に浮かべ、ドアをあけた体勢のまま、女子四人をみる。 「榊原君……。そういうわけではないけど」  一人の子がそういって、やはり困ったように笑おうとして、 「え?」  男子生徒から視線を手元の十円玉に移す。 「うごいて、る?」  かたかた、と音を立てて十円玉が揺れている。  押さえていた人差し指に軽い圧力を感じて、彼女は思わず手を離した。同じようにして、他の三人も手を離し、怖いものを見るかのように十円玉を見つめる。  ゆっくりと、それは宙に浮かび始めた。 「もしもーし」  廊下のほうからでは、窓際にいる彼女達の様子がよく見えず、男子生徒は幾分砕けた調子で声をかける。 「忘れ物とりに来ただけだから、すぐ帰るから」  そういって、一歩教室に足を踏み入れたとき、その十円玉は狙いたがわず彼にめがけて飛んでいった。 「榊原君っ!」 「っ!」  事態が理解できないながらも、反射的に彼は両腕を顔の前で庇うように組み、  そして……。
/299ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加