第一章 ボーイ・ミーツ・ウーマン

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「被害者、榊原龍一。性別、男」  片手に持ったバインダーに挟んだ資料の内容を口の中だけで呟きながら、一人の女性が病院の廊下を歩いていた。 時々、看護士や入院患者とすれ違うが、白衣を着込んだ彼女を誰も気にはかけない。白衣の上で長い黒い髪が揺れた。 「十七歳、都立瀧沢高等学校二年。クラスメイトがこっくりさんをやっている現場に入り込み、」  一つの部屋の前で立ち止まり、ちらりと部屋の番号を確認するとノックもせずにドアを開けて、中へ入り込んだ。後ろ手でにドアを閉める、 「現在、意識不明」  資料に書かれていた言葉を思い出しながら、腕を組みベッドの上の少年、榊原龍一をみる。  彼は本当に、ただ眠っているようだった。短い黒髪に、長めのまつげ。少しだけ開いた口元。あどけない、幼いともいえる寝顔。  かわいそうに、と彼女は思う。こっくりさんに憑かれるなんていう経験、今日日そうそうないんじゃないの? そりゃぁ、医者もさじを投げるわよね。突然倒れて意識不明、外傷もなしじゃ。そこまで考えて彼女は軽く瞳を閉じた。 「お願いします!」  廊下で中年の女性が叫ぶ。  すがりつくようにして、医者に向かって 「お願いします、龍一を助けてください、お願いします」  医者も困った様子でそんな女性を見ていた。  先ほど見た光景を思い出し、彼女は軽く、どこか皮肉っぽく唇をゆがめた。。  ベッドの脇まで歩いていくと、龍一の髪を軽く撫でる。 「貴方は、倖せ者ね。母親に愛されて」  唇の角度を、少しだけ優しげに緩める。 「もう少し、待っていてくださいね」  そういってもう一度微笑むと、そのまま病室を後にした。
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