47人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
菩薩みち。
斎藤の背は、道場の壁に当たっていた。
投げだされた二人の木刀が、床に転がっている。
強引に斎藤の木刀が弾かれたからだ。
まわりの人間など、おかまいなしとばかりに。
稽古の途中で、木刀を投げ出し、斎藤を壁際に引き寄せ、
壁へついた両腕に斎藤を閉じ込めてしまった沖田が、
「おまえの剣が冷たい」
などと。あげく斎藤が呆れるような台詞を吐いて、
間近で見下ろしている。
斎藤は昨日から怒っている。自然、沖田へ向ける全ての
態度が冷たくなるくらい当然だ、
だが、稽古の最中に自分の剣までが冷たくなるとは、
さすがに信じかねる。
斎藤は、溜息をついて目の前の沖田を睨みつけた。
「・・・稽古する気、あるのか?」
「今のおまえと向かい合っていると、いてもたってもいられなくなる」
「・・・」
あいかわらず変な返事に、斎藤は眉を顰めた。
斎藤専用沖田語変換辞書が翻訳するに、
沖田は今の斎藤と剣を交えていると、いてもたってもいられず、
まともに稽古をしようにもできないからする気は無い、・・・という具合か。
「・・する気が無いなら、おまえにつきあってる暇は無い。どけ」
斎藤は片手を突き出し。目の前の沖田をどかそうとした。
最初のコメントを投稿しよう!