菩薩みち。

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菩薩みち。

斎藤の背は、道場の壁に当たっていた。 投げだされた二人の木刀が、床に転がっている。 強引に斎藤の木刀が弾かれたからだ。 まわりの人間など、おかまいなしとばかりに。 稽古の途中で、木刀を投げ出し、斎藤を壁際に引き寄せ、 壁へついた両腕に斎藤を閉じ込めてしまった沖田が、 「おまえの剣が冷たい」 などと。あげく斎藤が呆れるような台詞を吐いて、 間近で見下ろしている。 斎藤は昨日から怒っている。自然、沖田へ向ける全ての 態度が冷たくなるくらい当然だ、 だが、稽古の最中に自分の剣までが冷たくなるとは、 さすがに信じかねる。 斎藤は、溜息をついて目の前の沖田を睨みつけた。 「・・・稽古する気、あるのか?」 「今のおまえと向かい合っていると、いてもたってもいられなくなる」 「・・・」 あいかわらず変な返事に、斎藤は眉を顰めた。 斎藤専用沖田語変換辞書が翻訳するに、 沖田は今の斎藤と剣を交えていると、いてもたってもいられず、 まともに稽古をしようにもできないからする気は無い、・・・という具合か。 「・・する気が無いなら、おまえにつきあってる暇は無い。どけ」 斎藤は片手を突き出し。目の前の沖田をどかそうとした。     
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