同乗者

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同乗者

 いつの頃からか、タクシーに乗ると、もう一人の人は同じ場所まで乗るということでよいのか、という質問をされるようになった。  もう一人と言われても、乗り込んだのは俺だけで、車内にいるのは運転手と俺だけ。他には誰の姿もない。  最初の内は、おかしなことを言うドライバーに当たったと思っていたが、タクシーに乗ると何度となく同じ問いを向けられて、さすがに俺もおかしいと思うようになった。  この現象はタクシー限定らしく、他の状況では、一人の時に連れがいるなんて誰にも言われたことがない。  タクシーに乗り込む時、いったい何が俺の隣にいるのか。それが幽霊だとして、タクシー限定で出現する目的は何なのか。  考えても埒が明かず、ある日思い切って、俺はとある行動に出た。  捕まえたタクシーに乗り込むと、運転手が行先は二人一緒でいいのかと聞いてくる。それにあえて答えず、俺は一つの質問を口にした。 「お前はどこまで?」  言った瞬間、凄まじい寒気が俺の身を襲った。それと同時に、隣からしゃがれた声のような音が響いてきた。 「………」  何を言ったのかは聞き取れなかった。でもそれは、タクシーで向かう行先としてはありえない場所で、隣の何かと一緒にそこへ行ってはいけないということは直感で理解できた。  内側から扉を開け、俺は転げ出るようにタクシーを下り、勢いのままその場から逃げ去った。  その後、この時のタクシーがどうなったのかは知らない。けれど多分、おかしな客が気分を変えて降りてしまった、というだけのことで、運転者が不幸になるようなことはなかったと思ってる。  だって、今だに俺はタクシーに乗ると、行先は二人一緒でいいのかと聞かれることがあるからだ。  今でも俺の隣にいて、俺を、向かってはいけない場所へ連れて行こうとしている何ものか。  タクシーに乗り込んで行先は一緒なのかと聞かれたら、そいつが先に行先を告げる前に、俺はタクシーから転げ出ることにしている。 同乗者…完
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