改訂版

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改訂版

床も壁もどこもかしこも赤い。埃に塗れた黒い天井を除き古めかしい英国調の屋敷はどこも赤く、時間が経った場所は赤黒く変色していた。 それでもなお絨毯敷きの廊下だけは古ぼけたローズピンクを覗かせる。その上を茶色い革靴が血溜まりを避け踊るように前進していた。 「思い出さなきゃいけないんだけど」 思い出せない。鼻歌のように呟き緋色の三白眼を細める男の表情はあどけない。 「参ったな。あの電話ボックス…どこだっけ」 大事なことのはずなのに記憶は焦点を結ばない。考えるうちに男の足はとうとう血溜まりしかないところへ来てしまう。 血溜りを踏まないためにはもう落ちている身体を踏むしかない。男の唇が尖る。死体の上を歩くのは"ルール違反"だ。でも血溜りを踏んだら"死ぬ"。すると残された選択は、ルールを破ること。子供のような一人遊びをしていた男の足がしぶしぶ動かぬ女を踏みつけた。
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