序章ー予告編ー

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   今日も空は澄んでいる。  イングランドの片田舎。  絵に描いたような青い空に切れ切れに浮かぶ雲を見上げた。  この町の冬は寒い。  今日にしてもまだ秋口だというのに教会から外へ出るのにそろそろ外套を着るべきか考えなければならなかったほどだ。  しかし俺は結局、普段着である黒いキャソック姿で教会まわりの枯れ葉を片付けていた。  箒で石畳を掃く音がいやに寂しげに耳に響く。  司祭が亡くなったのはもう1年も前のことなのに、俺はまだその丸まった背中が傍らにないことを不安に感じている。  誰もいない教会を見回しつい一人を噛み締める。  長年傍らにあった者の不在は冬の風以上に心をささくれ立たせていく。  司祭の年齢を考えれば、そういうことも起こるものだと想像できないわけではなかった。  なにせ俺が子供の頃からおっさんだったわけだから、いくら若く見えるといっても確実に初老は過ぎていた。  それなのに俺は家族同然の彼がある日唐突に死ぬなんてこと思いもしていなかった。  司祭は心優しく、しかし豪胆な男で、どんな難題でもケロリとこなしてしまうから俺には超人のように見えていた。  そんな男が病気でぽっくりなんて平凡な死に方、俺は今でも彼には似合わないと思う。  愛する町の人の反対を押しきり彼が拾った素行の悪い少年は、いまや神父として彼の去った教会を細々つづけるまでになった。  この小さな奇跡も彼の人柄ゆえ。  司祭こそ俺にとって最も偉大な男だった。  それなのに…。  司祭が死んでから何度神に問うたか。  なぜ彼のような懐の大きな人間がこんな片田舎の小さな教会で死なねばならなかったのか、と。  大きな教会で勤めればもっと多くの人々を導き、もっと多く働きをしたのではないか。  いや、したに違いなかったのに。  何度問うてもどうせ神が答えることはないだろうが。  目を細め手入れの行き届いたイングリッシュガーデンを見渡す。  彼の趣味で教会の真裏に小さく開かれた庭も彼が去ってから彩りがなくなった。  昔はここでよくお茶会なんかも開いていたがそれもしばらく催されていない。  ため息の理由はつきなかった。  祈りに来る町人も日に日に減っている。  それは俺のせいもあるだろうが町に押し寄せた開発の波のせいもあるだろう。  町中にぽっかりと空いていた土地に大きな工場ができたのだ。  
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