序章ー予告編ー

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 「おい!次は外さないぞ」  幹からナイフを引き抜き上に向かって呼びかける。 「なぜ俺を見てる」  生い茂った葉の中で相手は固まっているようだ。  脅かしすぎたろうか。  これだから神父には向かないと散々注意を受けてきたが、もうそんな注意をしてくれる人もいない。  神様が見ていらっしゃる?  ならどうして司祭は死んだ。  俺にはまだ彼が必要だったのに、神はなにを見ているんだ。 「っは、…あの…」  若い男の声が降ってきた。  なんだ男につけられてたのか。  正直、個人的には気持ち悪いと思ってしまうがこれでも俺は神父だ。  ここは冷静に話そう。 「ああ。どうした降りられないのか」 「お…降りられます…けど…」  けど、なんだ。俺が殴りかかりでもしそうで怖いのか。 「怒らないから降りてきて説明しろ」 「ほ、本当に?」 「ああ。いつもそんなとこから見てたのか」 「いや…その……はい」  おどおどとした高めの声からしてまだ十代の可能性もある。  もしかして何か話したいことがあってずっと俺を伺っていたのだろうか。  方法としてはちょっとアレだがそうだとすればあまり厳しく当たるのも可哀想かもしれない。 「危ないから降りてこい」  声色を和らげると木の上で思案する気配がする。  一体どんな奴だ?どんな顔をしてる。  声に聞き覚えがないということは工場へ働きに新たに町へやってきた労働者だろうか。 「は…恥ずかしい……から」 「…は…」  思わず漏れた声にしまった、と後悔する。  しかし男の蚊が鳴くような声に沸き起こった小さな苛立ちを止められない。  これだけ執拗に俺を観察しといてそっちは恥ずかしいから顔出しませんだ?  そんなことがまかり通ってたまるか。  こっちは気味の悪い生活が続いたんだ。  ちゃんと顔をだして話しくらいしろ。 「なにか話したいことがあって俺を見てたのか」 「………いや…話したい…わけじゃ」  ならなおさら面を出してもらわないと気に入らない。  ただ見ていたくてつけ回したなら変質者だろ。  詫びの言葉ひとつくらい入れるのが筋ってもんだろう。
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