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ただ自分の立場を思うとその想いをバサリと切り捨てるわけにもいかず、上手い断り文句を探しつづけている。
そんな複雑な思いとはいえ彼が無邪気に口にする好意は結局、俺を照れ臭さの頂に押し上げてはいちいちと胸をこそばゆくさせる。
「本当だよ!オコナーはすごくかっこいいんだから!首まで止まったボタンが最高だ!肉体が秘められてる感じがたまらなくセクシーなんだよ。とくにクルミぼたんなところもツボを押さえてて……あ、えーっと…」
キランの誉め言葉は端的に言って恥ずかしい。
いたたまれなさに頭痛でもしたように俺はこめかみを押さえた。
しかも彼の話しを総合すると体格のいい神父であればだいたい彼の好みのど真ん中のようだった。
つまり俺である必要はない。
そう思うとまたその純真そうな瞳が複雑で仕方ない。
「ほんと…その、えっと…オコナー?」
「なんだ」
「その…」
話の収拾がつかなくなるとキランは決まって気まずそうに自分の前髪に手をかける。
それから伸びた前髪を掻き散らすと、はにかんで言う。
「……また来るよ!」
ほら、また言った。
誤魔化すような早口で花束を押しつけキランは走り去る。
こちらも見もせずに手を振ってみせたキラン青年の後ろ姿にため息をつく。
「まさか家まで来るようになるとは…」
仕方ないといえば仕方ないことだった。
いくら発展し始めたとはいえここはもとは小さな町だ。
誰がどこに住んでいるかなんてこと住人みんなの周知の話で、なおかつ亡き司祭と柄の悪い神父の住まいなんて言えば町の誰もが知っている。
そうでなくてもキランは俺の家を突き止めた気もするが。
押しつけられた花束を改めて観察した。
美しい色の花がバランスよく配置された趣味のよい花束だった。
まるで司祭のいた頃の庭のような。
キランの顔を浮かべ眉間を摘まむ。
「まったく。困ったやつだ…」
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