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なるほど。納得して陽介は〝お急ぎ〟ボタンを押した。ジャーに赤いランプが点灯する。
「ただ、ご飯は急いで炊いても、人生は〝お急ぎ〟じゃなくてもいい。おまえはまだ若いんだ。生き残ることができたら、ゆっくり次の人生を考えろ」
自嘲気味に陽介は笑った。
「僕なんて生きてたって意味ないんです。特に才能や取り柄があるわけでもない。だから、正社員にもなれないし、彼女もできない。たぶん、将来結婚して子供をつくることもありません」
半ば本音だった。たぶん、この五日間を生き残れたのは、他の参加者と違ってそれほど死を恐れていなかったからだ。生(せい)に拘泥(こうでい)しない選択が、逆に生を拾ったとすれば皮肉だった。
「……俺の若い頃の話はしたよな?」
伊藤の顔が真剣な色を帯びた。
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