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「ありがとう。でも、最後までフェアに行こう。お互い、勝っても負けても恨みっこなしだぜ」
差し出された大きな手を、陽介はがっちりと握った。一人っ子だった青年にとって、伊藤は兄のような存在になっていた。
「さて、それじゃあ、最後の晩餐(ばんさん)の準備といくか」
冗談めかして言うと、伊藤が背広の上着を脱ぎ、椅子の背にかける。ワイシャツの袖を肘の上までめくった。
食事は伊藤が作ってきた。最初は交代制だったが、キャバ嬢(三日目に死亡)の飯があまりに不味かったのと、次の当番になるはずの人間がゲームで死ぬこともあり、飲食店を営んだ経験のある伊藤が自らシェフ役を買って出た。
冷蔵庫に残っていたキャベツの芯を手に取り、まな板の上に置いた。
「ええと……包丁は……」
伊藤が辺りを見回す。シンクの周辺には見当たらなかった。
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