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あ、と思い出したように陽介が手を打つ。
「佐々木さんの口に〝刺さった〟ままだった。待っててください。僕、取ってきます」
陽介はテーブルに突っ伏している男のもとに向かった。身体を抱え起こすと、ばりっと顔に貼りついていた血がはがれる。
五十年配の男性の口から包丁の柄が〝生えて〟いた。刃先は首の後ろまで貫通している。
椅子の背もたれに身体を預けさせ、額を左手で押さえ、右手で包丁の柄を持ち、ずぼっと引き抜いた。刃には血と肉が付着していた。
佐々木さんは四日目の〝ハラキリゲーム〟で負けた。中堅文具メーカーの総務部長。奥さんと中学生と高校生の娘がいる。家では良きパパだったらしい。
「刃先がちょっと欠けちゃってますね」
刃を自分に向けて、柄の部分を差し出す。
「先端なら大丈夫だ。運営はとぎ石も用意しておくべきだろうな。ここでは包丁は料理の道具にも凶器にもなる。どっちの用途で使われるにせよ、切れ味は大事だ」
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