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伊藤が鍋に水を入れ、塩をひとつまみ入れてコンロに置いた。鍋の下で青い炎が広がる。
「これが俺たちの最後の飯になるんですかね」
つい感傷的な気分に浸ってしまう。
「アメリカじゃ、死刑囚が最期に食べる飯をリクエストできるんだ。オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件で168人を殺したティモシー・マクベイが最期に食ったのは、なんと、どんぶり山盛りのチョコミントアイスクリームだぜ。他にもオリーブ豆一粒ってやつもいたな」
まな板の上でキャベツの芯をそぎ切りにしていきながら、いつになく伊藤は饒舌だった。迫ってきた死への恐怖がそうさせるのだろうか。
鍋のお湯が沸騰したら、刻んだキャベツの芯を放り込んで煮込み始めた。
「キャベツの芯は葉より栄養があるんだ。特にカリウムとリンが多い。カリウムは体のバランスをとり、リンはエネルギーを作り出す」
「へー、健康によさそうですね」
さすが飲食チェーンを経営してるだけはある。伊藤はいろいろなことを知っている。だが、これから死ぬかもしれないのに、健康を気にかけている場合ではないが。
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