第一話 最後の晩餐は〝豚丼〟

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 伊藤が鍋に水を入れ、塩をひとつまみ入れてコンロに置いた。鍋の下で青い炎が広がる。 「これが俺たちの最後の飯になるんですかね」  つい感傷的な気分に浸ってしまう。 「アメリカじゃ、死刑囚が最期に食べる飯をリクエストできるんだ。オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件で168人を殺したティモシー・マクベイが最期に食ったのは、なんと、どんぶり山盛りのチョコミントアイスクリームだぜ。他にもオリーブ豆一粒ってやつもいたな」  まな板の上でキャベツの芯をそぎ切りにしていきながら、いつになく伊藤は饒舌だった。迫ってきた死への恐怖がそうさせるのだろうか。  鍋のお湯が沸騰したら、刻んだキャベツの芯を放り込んで煮込み始めた。 「キャベツの芯は葉より栄養があるんだ。特にカリウムとリンが多い。カリウムは体のバランスをとり、リンはエネルギーを作り出す」 「へー、健康によさそうですね」  さすが飲食チェーンを経営してるだけはある。伊藤はいろいろなことを知っている。だが、これから死ぬかもしれないのに、健康を気にかけている場合ではないが。
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