第一話 最後の晩餐は〝豚丼〟

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 茹でている間に、伊藤が豚肉の下準備に入った。ポリエチレンのトレーにわずかに残った豚肉に塩コショウを振る。 「みんな、なんでもかんでも肉の脂身を目の敵にするけど、豚の脂にはステアリン酸が豊富で、抗酸化作用があるんだ。こういう疲れが蓄積しやすい極限状況では、むしろ積極的に食べた方がいい」  そのせいだろうか、伊藤はゲーム開始から明晰な頭脳を保ちつづけた。デスゲームで生き残るには食べ物が大事だと再三言っていた。 「ウクライナには、サーロっていう豚の脂身の塩漬けがある。第二次大戦のソ連兵士の回顧録には、よくこの料理が出てくる。若い頃、ヨーロッパに旅行したときに食ったけど、ウォッカのつまみに最高だったぞ」 「なんで脂身なんて食うんですか?」  スーパーでサービスでくれる牛脂を思い出した。あんなもの食べて美味いのだろうか?
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