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「こちらのテーブルでございます」
男性ウェイターが引いてくれた椅子に、赤いドレス姿の若い女が腰を下ろす。
白いクロスに覆われたテーブルの上には、ワイングラス、カトラリー、薔薇の花弁風に折られたナプキンが置かれ、キャンドルの炎が揺れていた。
いちめんガラス張りの窓からは、遠くに都心のネオンを一望できる。
玲奈は窓に映っている自分の顔を見た。仮面舞踏会などで使うような赤いアイマスクが目の周りを覆っている。
「いい席だろ?」
テーブルの向かいからだみ声がした。
高級ブランドのスーツにずんぐり体型を包んだ五十年配の中年男が笑っていた。ゴルフ焼けした顔から総インプラントの白い歯がのぞく。玲奈と同じように、目はアイマスクで覆われていた。
「うん、パパ。すごく夜景がきれいね。ありがとう」
「夜景? ああ、そうだな」
さして興味もなさそうに西尾は窓に顔を向けた。その言い方に少し違和感を感じたのだけれど、玲奈はよけいなことは考えないようにした。愛人は頭がパーの方が好まれる。
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