第六話 地上300メートルの天空ディナーはカレー

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 今日のパパ、どうしちゃったのかしら? さっきから窓の外ばかり見て……。  仕事の忙しい西尾とこうした時間を持てるのは久しぶりだった。玲奈はこの機会を逃さずに以前から西尾と交わしていた事案を持ち出した。 「ねえ、パパ、あの話だけど……ほら、私にお店を持たせてくれるって」 「店?」 「ワンピースの専門店。事業計画書も見せたじゃない。税理士の橋本先生にも相談して」 「ああ、その話はまたな。今日はメシを楽しみたいんだ」  玲奈は不機嫌そうに口をへの字に曲げる。ふん、何がメシを楽しみたいよ。味なんてわからないくせに。  貧しい出自から風俗チェーンで成り上がった西尾は食べられれば味など二の次という、典型的な〝貧乏舌〟だ。料理に興味を示さないのはいつものことだが、今夜はずっと心ここにあらずなのだ。
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