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『いいか、ぜったいに下を見るな!』
スピーカーから男の叫び声が聞こえた。恐らく先頭の登山家だろう。
『無理です! 新城さん、俺はだめです』
これはニートの若者。新城というのは登山家の名前か。
『田辺、呼吸を整えろ。無理に動くな』
はーはー、という青年の荒い息遣いがスピーカーからも聞こえる。今にも吐きそうな顔をしている。
『どうだ、おまえは落ちていないだろ?』
若者の頭がこくんと小さく下がる。
『大丈夫という感覚を少しずつ積み上げていけ。それと、腕に力を入れすぎるな。疲労が腕にたまる。体をリラックスさせろ』
青年はパニック状態からやや落ち着きを取り戻したようだった。
『田辺、窓の向こうの料理が見えるか?』
田辺のうつろな目が窓越しに、室内の様子を覗き込む。
『見えます……』
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