第六話 地上300メートルの天空ディナーはカレー

14/33
前へ
/344ページ
次へ
『いいか、ぜったいに下を見るな!』  スピーカーから男の叫び声が聞こえた。恐らく先頭の登山家だろう。 『無理です! 新城さん、俺はだめです』  これはニートの若者。新城というのは登山家の名前か。 『田辺、呼吸を整えろ。無理に動くな』  はーはー、という青年の荒い息遣いがスピーカーからも聞こえる。今にも吐きそうな顔をしている。 『どうだ、おまえは落ちていないだろ?』  若者の頭がこくんと小さく下がる。     『大丈夫という感覚を少しずつ積み上げていけ。それと、腕に力を入れすぎるな。疲労が腕にたまる。体をリラックスさせろ』  青年はパニック状態からやや落ち着きを取り戻したようだった。 『田辺、窓の向こうの料理が見えるか?』  田辺のうつろな目が窓越しに、室内の様子を覗き込む。 『見えます……』
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!

183人が本棚に入れています
本棚に追加