第六話 地上300メートルの天空ディナーはカレー

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 しばらく返事がなかった。ゴーゴーという風の音だけをマイクは拾う。しゃべるどころではないのだろう。むしろ、それが普通だ。あの登山家が異常なのだ。 『何が食いたい? 賞金をもらったら』 『ぼ、僕は……牛丼でいいです』  若者が弱々しく言った。 『ああ、美味いよな、吉田家の牛丼。俺も外国暮らしが長いと、無性に日本の牛丼が食べたくなるよ!』  あはは、と新城は豪快に笑い飛ばした。  三人は会話をしながら、じりじりと南側の窓を移動していく。スピーカー越しの会話に黙って耳を傾けていた司会者が、再びマイクを口に寄せた。 『では、これより恒例の〝インターフェアタイム〟に移ります。窓際のお客様のテーブルには、スタッフがリモコンをお持ちしますので、よろしくお願いします』
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