183人が本棚に入れています
本棚に追加
しばらく返事がなかった。ゴーゴーという風の音だけをマイクは拾う。しゃべるどころではないのだろう。むしろ、それが普通だ。あの登山家が異常なのだ。
『何が食いたい? 賞金をもらったら』
『ぼ、僕は……牛丼でいいです』
若者が弱々しく言った。
『ああ、美味いよな、吉田家の牛丼。俺も外国暮らしが長いと、無性に日本の牛丼が食べたくなるよ!』
あはは、と新城は豪快に笑い飛ばした。
三人は会話をしながら、じりじりと南側の窓を移動していく。スピーカー越しの会話に黙って耳を傾けていた司会者が、再びマイクを口に寄せた。
『では、これより恒例の〝インターフェアタイム〟に移ります。窓際のお客様のテーブルには、スタッフがリモコンをお持ちしますので、よろしくお願いします』
最初のコメントを投稿しよう!