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玲奈はフロアを見渡した。
この人たちは、人の生き死が余興なんだ。必死で金を手に入れようとする人の姿を肴(さかな)にディナーを楽しんでいるんだ。
一方、窓の外では、二人の男たちが苦闘していた。生々しいやり取りが、スピーカー越しに聞こえてくる。
『新城さん、僕はもう動けません。先に行ってください』
『行かねえよ。登山ではパーティの仲間を置いていったりしねんだよ。パーティが全滅する危険がない限りはな』
『だったら行ってください! このままじゃ二人とも死にます』
『それを決めるのはおまえじゃねえ、俺だ。おまえはまだ進める。必ずゴールにたどり着ける。だから、勇気を出せ』
うっぐ、うっぐという若者の嗚咽の声が聞こえてくる。
『怖いんです。怖くてたまらないんです』
『おまえは引きこもりだったんだろ? 母ちゃんが死んで家から出たときのことを思い出せ。もっと怖かったろ――違うか?』
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