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止まっていた若者の足が再びじりじりと動き出す。
『いいぞ。いっきにいかなくていい。少しずつ動け』
窓の外に張り付いたまま、二人の男が移動してくる。玲奈と西尾がいるテーブルのすぐそばまで来たとき、新城が言った。
『田辺、止まれ。風が強い』
薄いガラス越しに登山家と目が合う。迫力に圧され、玲奈は声を失った。
西尾は見せつけるように、ヒレ肉の塊をガツガツと食べる。新城の刺すような自然を悠然と受け止め、ゆっくりとワイングラスを傾ける。
『田辺、この世でいちばん美味いメシはなんだと思う?』
ニートの青年は答えない。風の音で聞こえないのかもしれない。新城は誰に言うでもなく続けた。あるいはスピーカーを通して、会場に聞こえていると知っていたのか。
『俺は登山家だから、世界中の国でいろんなものを食った。ヤクのステーキからエスキモーの漬け物まで、なんでもだ。フレンチのフルコースももちろん食ってるよ。けどな、ほんとうに美味い食い物はそういうもんじゃない。世界でいちばん美味いのは――』
いったん言葉を切り、新城は言った。
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