第六話 地上300メートルの天空ディナーはカレー

24/33
前へ
/344ページ
次へ
 新城の挑発的な言動が、セレブたちの自負心を傷つけたのだろう。 「俺にやらせろ! 金はいくらでも出す」 「俺だ。あの生意気な小僧をぶち落としてやる」 「私にやらせて! こういうの得意なの」  テーブルから次々に腕が上がる。  操縦士が決まり、三機のドローンが再び二人の近くに飛来する。機体下部の筒から、家庭用洗剤がびゅっ、びゅっ、と発射され、窓に付着した白い泡が垂れ落ちていく。  グローブの吸着力が弱まり、ニート青年の腕がぶるぶる震える。 『だめです。新城さん、僕はもう――』 『こらえろ! 手に頼るな。体のバランスを意識しろ』  ここぞとばかりにドローンが若者に襲いかかる。頭の後方を旋回し、液体洗剤を振りかける。青年の頭や肩は、みるみる白い泡で濡れていった。足場も洗剤まみれだった。 『新城さん――』  青年が登山家に顔を向けた。 『ぜったいにゴールしてくださいね』  青年は足場の上で太った体をひねらせ、大きく腕を広げた。まるで空を飛ぶ鳥のように、宙に飛び出した。伸ばした手の先には、二機のドローンがあった。
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!

183人が本棚に入れています
本棚に追加