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新城の挑発的な言動が、セレブたちの自負心を傷つけたのだろう。
「俺にやらせろ! 金はいくらでも出す」
「俺だ。あの生意気な小僧をぶち落としてやる」
「私にやらせて! こういうの得意なの」
テーブルから次々に腕が上がる。
操縦士が決まり、三機のドローンが再び二人の近くに飛来する。機体下部の筒から、家庭用洗剤がびゅっ、びゅっ、と発射され、窓に付着した白い泡が垂れ落ちていく。
グローブの吸着力が弱まり、ニート青年の腕がぶるぶる震える。
『だめです。新城さん、僕はもう――』
『こらえろ! 手に頼るな。体のバランスを意識しろ』
ここぞとばかりにドローンが若者に襲いかかる。頭の後方を旋回し、液体洗剤を振りかける。青年の頭や肩は、みるみる白い泡で濡れていった。足場も洗剤まみれだった。
『新城さん――』
青年が登山家に顔を向けた。
『ぜったいにゴールしてくださいね』
青年は足場の上で太った体をひねらせ、大きく腕を広げた。まるで空を飛ぶ鳥のように、宙に飛び出した。伸ばした手の先には、二機のドローンがあった。
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