第六話 地上300メートルの天空ディナーはカレー

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 強風と雨粒は、容赦なく新城に襲いかかる。  濡れた前髪が額に張り付き、窓に頬をつける姿はスマートとは言えなかったが、だからこそ、生死を賭けている人間の凄みを感じさせた。  いつしか野次を飛ばす声は消え、客たちは息を呑んで新城のチャレンジを見守った。  赤いドレス姿の玲奈は、魅入られたように男を追いつづけた。視界を限定するアイマスクを顔からはぎ取り、床に放り捨てた。  登山家がなぜ山に登るのか、玲奈にはわからない。ただ、その冒険を応援する人の気持ちは少しわかった気がする。  危険を冒して、頂上をめざす人は、応援せずにいられないのだ。  少女の頃から美しかった玲奈には、男が群がってきた。ブランドのバッグでも宝石でも、ねだれば男がなんでも買ってくれた。  でも、自分の力で手に入れたものは何もない……。
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