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「おひとりですか?」
山小屋の近くにある木のベンチで声をかけられた。玲奈は靴ひもを結ぶ手を止め、顔を上げた。
30代ぐらいの背の高い男が立っていた。めくったネルシャツの袖からたくましい腕がのぞく。大きな手にマグカップを持っている。かすかにコーヒーの香りがした。
玲奈は「はい、そうです」と微笑んだ。登山では、見知らぬひとと挨拶を交わすことが多いので自然に受け答えた。
「これから奥穂高の山頂に」
上下の服装はモスグリーンのウインドブレーカー、足元には荷物を詰めたザックが置いてある。
「今から登れば、ちょうどお昼ごろに山頂ですね」
男が山を仰ぎ見た。澄み渡った夏空の下、ところどころコケのような緑に覆われた山肌がそびえたっていた。
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