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「馬鹿な野郎だ。痛みで眠気が覚めると思ってやがる」
「違うんですか?」
「出血多量で脳に血がいかなくなると逆に眠気は増す。正確に言えば、眠くなるというより意識を失うんだがな。俺たちにとっちゃ同じだ。眠ろうが、意識を失おうが。これが頭にある限り――」
自分のこめかみを指でつつく。そこには鉢巻のようにヘッドバンド型の電子機器が巻き付いていた。清水の頭だけではない。この部屋にいる全員の頭にそれはあった。もちろん、裕紀の頭にも――。
デブの若者が太ももを刺すのをやめた。壁に背を預け、ぶつぶつと何かをつぶやいている。やがて、それも聞こえなくなる。ヘッドバンドに赤いランプが点滅した。
呼応するように、和室の床の間にある白いAIスピーカーが光った。
「田中さんの脳波が消失し、低振幅パターンの波形になりました。睡眠状態と認め、カウントに入ります。5、4、3――」
女性のマシンボイスが冷静にカウントダウンを始める。
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