第八話 眠気覚ましにはコーヒーとジェラートを

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 シャツの袖をめくると、おもむろに畳の上で腕立て伏せを始めた。「1、2、3、4、5、――」唸るようにカウントを続けながら、規則正しく体を上下させる。 「食べると血が脳から胃腸に集まる。だから、筋トレで戻してやるんです。新人ホスト時代、先輩から教わりました。眠気覚ましには〝これ〟がいちばん効くってね」  早くもだらだらと流れ出した汗が顎を伝って畳に吸い込まれる。なんだかめちゃくちゃな理論のような気がしたが、タクヤが生き残ってきたのは事実だった。  100、と力強く叫び、腕立て伏せを止め、今度は仰向けに横たわり、両膝を立てた姿勢から腹筋を始めた。1、2、3、と口ずさみながら、起き上がった拍子に体に〝ひねり〟を加える。  ホストなので、単に眠らないことに慣れているのだろうと思ったが、タクヤに言わせればそれは誤解だった。 「ホストだってちゃんと眠ってますよ。みなさんと昼夜が逆転してるだけです。ただまあ、太客の同伴に突き合わされて、最高で4日間一睡もせずってこともあったかな」
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