第八話 眠気覚ましにはコーヒーとジェラートを

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「ナチスドイツに“断眠法”って、刺激を与えて人を眠らせない拷問があってな、どんなに耐えたやつでも1週間で発狂するか、死んじまったらしい」 「今日で5日目だから……あと2日で1週間ですね」  大盛りナポリタンとデザートのバナナを食べ終えた裕紀は、空いた食器を給仕係のメイドに返却した。清水とアイドルの亜美が後に続く。  ホストのタクヤの姿がなかった。  壁際に座ったまま首を折り、突っ伏すようにパスタの山に顔を埋め、ぴくりとも動かない。眠っていた――いや、気を失っていた。  床の間のAIスピーカーが赤く明滅する。 『タクヤさんの脳波が消失し、低振幅パターンの波形になりました。睡眠状態と認め、カウントに入ります。5、4、3――』  マシンボイスが冷静にカウントダウンを始める。  清水が両手で耳をふさいだ。裕紀もまぶたを閉じ、耳に手を強く押し付ける。0のコールとともに、バンッ! と花火のような乾いた爆発音が響いた。  タクヤの頭から黒い煙が立ち上り、ホスト時代の白いスーツが真っ赤に染まった。頭をパスタの山に突っ込んだまま、ぴくりとも動かない。
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