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血だらけの指を伸ばし、陽介は煙草を受け取った。男が手をかざし、ライターで火をつけてくれる。
ふう、と煙を吐き出す。ゆらゆらと立ち上る白い煙を追うように、陽介は天井をぼんやり見上げた。古い蛍光灯とむき出しの配管パイプが見える。
コンクリートの冷たい壁に背を預け、二人の男はしばらく押し黙った。
やがて伊藤が口を開いた。
「生き残れたら、おまえは何をしたい?」
陽介は考えた。夢も希望もない人生だった。大学を出たが、正社員としての就職は難しく、契約社員として働き始めたが、雇い止めにあって失職。それからは深夜バイト暮らし、気づけば27歳になっていた。
「なんだ、何もやりたいことがないのか? 賞金は一億だぜ」
「どうなんですかね、それ。本当にもらえるのかどうか」
陽介は顔を持ち上げ、壁の上にあるスピーカーを見た。五日前、ここで目を覚ましてから、すべての指示はあのスピーカーから、機械的に合成された女声のロボットボイスで出された。
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