第一話 最後の晩餐は〝豚丼〟

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 最初にロボットボイスから〝ゲーム〟の進行に関する説明があった。  この首輪には爆薬が仕掛けられており、命令に従わなかったり、ゲームの〝ルール〟を破ったら爆発する。無理に外そうとしても同じであると。漫画や映画で見た定番のデスゲーム設定なので、すぐに置かれた状況を呑み込めた。 「おっさん、ずっと牛丼が食いたいって言ってたなあ……」  白い煙を吐き出し、伊藤がつぶやいた。 「最後の言葉が、芳野屋の牛丼が食いたいでしたからね」  まさか人生最後の言葉が食い物の話題とは本人も思いもしなかっただろう。歌舞伎町でスカウトを始めた頃、金がなくて毎日牛丼ばっかり食っていたと話していた。  伊藤が壁の時計を見る。  時計の針は12時15分を指していた。13時になれば次のゲーム種目が発表される。お互いわかっていた。恐らくはそれが最後のゲームになると――。 「次のゲームまで45分ぐらいか」  短くなった煙草を、伊藤がコンクリートの床でひねりつぶした。冷たい地べたから重い腰を上げる。
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